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ふと、誰かに呼ばれたような気がして目が覚めた。
深い深い眠りの底にいたのに一気に浮上してきたせいか
此処が何処なのか
いま自分が何をしているのか
一瞬分からなかった
考える間もなくゆっくりと起き上がり、ベッドに腰掛けた。
ほんのりと暖房が効いているのでさほど寒くはないが
足の裏にラグの感触が冷たかった。
立ち上がり、大きな窓に歩み寄り、ブラインドを引き上げると降るような星空が広がっていた。
少し小高い住宅街に位置し、南側は海、周りは山だ。
夜ともなると闇が深い。
深夜、、、夜明けに近い夜ともなるとさらに闇が濃い。
窓を開け、少しだけ顔を出してみる。
真冬の、凍てつく空気が肌に心地良い。
しばらくしてウールのショールを巻き付けた。ネパール産の暖かいショールだ。
抱きしめるようにくるまり、一人がけの椅子を窓に引き寄せ、膝を抱えるようにして星空を見上げた。
だんだんと、少しずつ星の位置が変わっていくのを楽しんだ。
頬が外気にさらされて、冷えてゆく感触が心地良かった。
ふと立ち上がり、ドアを開け、階下のキッチンへと移動した。
暗闇の中に居たので灯りは付けず、コンロ上の灯りだけ点灯し、ミルクパンをおろし、冷蔵庫から牛乳を取り出した。厚手のマグカップに8分目まで牛乳を入れ、ミルクパンに注いだ。後ろを向き、友人が取り付けてくれた木の棚からココアの缶を取り出し、さらに食器棚の引き出しから木製のティースプーンを出した。ティースプーンできっちり4杯、山盛りのココアをミルクパンに入れ、てんさい糖を加え、火を着けた。
キッチンは寒かった。
ストールを巻き付け直し、木製のスプーンでココアをかき混ぜながら温めた。
コンロの周り以外は真っ暗で、ガスの燃える音とスプーンとミルクパンがこすれる音だけが静かにしていた。
沸騰寸前でミルクパンを火からおろし、濡れた台布巾の上に置いた。
一息ついてからマグカップに静かに注いだ。
ミルクパンを流しに置き、水道の水をいっぱいまで注ぐ。ガスの元栓を締め、コンロの灯りを消した。
熱々のココアを淹れたマグカップを持ち静かに階段を上り、寝室に入った。
窓に寄せておいた椅子に座り、星空を眺めながらゆっくりと熱いココアを飲んだ。
ゆっくりゆっくりと。
3口飲んだあたりで窓を開けた。凍てつく空気がさーっと部屋の中に入り込む。
冷たい空気の中でふー、ふー、ココアを冷ましながら飲み、星空を眺めた。
近くの森のどこかで、鳥が鳴いた。
鳥も夢を見るのだろうか、とふと思った。
だんだんぬるくなるココアをゆっくり飲むのは楽しかった。
まるでこの世界にたった一人でいるような感覚がした。
窓を締め、空になったマグカップを持ち、階下におり、流しに置いた。水を入れ、蛇口を締めた。
暗闇の中、なんの苦もなく動ける自分が嬉しかった。
ほとんど感覚がなくなるほど冷えた足の指先を意識しながらゆっくりと階段を上った。
引き上げていたブラインドを下し、ベッドに潜り込んだ。
枕を直し、かけ布団を引っ張り上げ、足先で湯たんぽを探す。
優しい暖かさを足先が見つけるとホッとした。
ココアで温まったカラダの中の暖かさと、湯たんぽの暖かさは優しいな、、
そんなことをふと思い、そしてすぐにまた眠りの中に引き込まれていった。